準々決勝第一試合 独逸対葡萄牙

最近さっぱり更新できていないけれど、まだまだルーマニア話もつづけるのでしばしお待ちあれ。

Maedchen Internat, Berlin-Prenzlauerberg - 12.6.2008


さて。サッカーのヨーロッパ選手権がはじまって明日で2週間がたとうとしてますけど、しかし、今回はほとんどPV(パブリックヴューイング)で、家の外でほとんどの試合をみているので、自分の中では毎日お祭り状態です。まあ、ワールドカップもいれたら2年に一回のサッカーのお祭りなのでさもあらんとは思いますが、このお祭り状態が永久永劫続いてくれるといいなともおもうのですが、そうもいかないでしょう、それがおまつりという、日常に潜在している非日常が目覚める瞬間というやつなんでしょうがね。

長いこと更新していなかったので、今日の一枚。
Johann Sebastian Bach: Die Kunst der Fuge - Pieere-Laurent Aimard,piano (Universal)


すばらしいです。はい。古典もうまいのですね、この人は。昔、京都でメシアンのトゥランガリーラ交響曲をきいたときにピアノ独奏をきいたことがあるけれど。この前ベルリンはYellow Loungeというクラブでクラッシクをかけるというイベントに登場していてなかなか気のきいた演奏やトークをしていましたが。(その模様はベルリン中央駅さんのブログをごらんあれ)

ところで、EM(独逸語でEuropameisterschaftの略称)がはじまったというのに、なにも書いていないのはけしからぬ、総括しろ!とのお叱りのお言葉をまわりからいただいたので、対戦チームの試合のグループリーグでの戦いを小生なりに総括しながら、試合をいかにたのしんだが、という視点で書いていこうかと思います。長くなるかもしれませぬが、おつきあいあれ。

で、昨日は決勝トーナメントの第一戦、準々決勝の第一試合、独逸対葡萄牙の試合。

グループリーグ最後の試合、ホスト国のスイスにテストの陣容であまりにもなさけない試合をして開催国に初勝利をプレゼントしたとはいえ、最初の二試合でトルコ、チェコに隙のないサッカーをしたポルトガルは、デコやロナウドだけでなく各ポジションに現在のヨーロッパでもピカ一のタレントをそろえて、悲願のヨーロッパチャンピオンのタイトルを狙うにふさわしい陣容をそろえてるといってもよい下馬評をグループリーグが終わった時点では獲ていたといってもよかった。個人的には、グループリーグが終わった時点で、88年のユーロを超えるかもしれない陣容と試合内容でグループリーグを全勝してきた我がオラニエことオランダが優勝候補の筆頭、そして、ポルトガル、そしてスペイン、それにクロアチアを加えて4強候補に押していましたが。

それに対して、独逸は初戦ポーランド相手に吹っ切れたサッカーをしたにもかかわらず、クロアチア相手に不甲斐ない試合をして敗れた上(この試合のクロアチアが非常に中盤をコンパクトにして、バラックフリングスに仕事をさせなかった上、ドイツの弱点であったサイドを完全に攻略したのが大きかった)、最終戦オーストリア戦はバラックのセットプレーからの一得点のみで辛勝といったありさま。グループリーグで非常にぎりぎりの試合をして勝ち抜いてきた独逸がどれだけ好調の葡萄牙に相対せるか、それが注目の一戦といってもよかった。オラニエファンの小生は、もちろん、アンチ独逸に力がはいったものの、決勝でオラニエが独逸を打ち破って88年のユーロ以来の優勝を夢見ている小生としてはまだまだ敗退してもらっても困る、というような複雑な心境で試合観戦に望むことに。

さて。立ち上がりは独逸が出足の早いプレスをかける。そしてボールポゼッションでも独逸が上回る展開。この時点で、グループリーグでの不調はどこえやら、の出足のよさ。独逸のアキレス腱はもちろん、サイドとディフェンスにあるのだけれど、中盤での早いプレスではやいパスワークでポルトガルを自陣から遠ざけることに最初の15分では成功する。ドイツは、フリングスを肋骨の骨折で欠いた上、前3戦で先発した不調のゴメスを見切って、クローゼをワントップ気味に起用して、その横に出場停止からもどったシュヴァインシュタイガーポドルスキーとならべた上で、その3人が縦横無尽にポジションチェンジをする、前二戦にはなかった流動性を前線に作り出す。その上で、バラックをトップ下気味において、ひとつ前のポジションにあげた上でオフェンスに集中させたこと、そして、怪我のフリングスの代わりに、ユーロの予選でも活躍した、大会初先発のヒッツェルスペルガーとロルフェスのダブルボランチにした4-2-3-1の布陣が立ち上がりおもしろいようにはまる。ポルトガルもだんたんとボールを持つようになるが、前に試合にあったポゼッションとパスワークをなかなか出せない。中盤でポルトガルの特徴を封じることによって、独逸はデコ、ロナウド、シマンといったポルトガルプレーメーカーになかなか仕事をさせない。
こうした展開で独逸に先制点が生まれる。左サイドで、ポドルスキーバラックとのワンツーを起点にしてサイドを突破して入れたグラウンダーの早いクロスを、出足の早いスタートでマーカーのパウロ・フェレイラを振り切ったぬけでたシュヴァインシュタイガーが、スライディングで蹴りこむという、これぞ、サッカー!という美しくスピーディーな得点シーン、これには敵ながらうならされました。そして、その直後の2点目はセットプレーから生まれる。ポルトガルのゴール前で致命的といもいえるオフサイドトラップの掛け損ないから抜け出たクローゼが十八番のヘディングで今大会初ゴール。思えば、ポルトガルは攻撃面では注目されていたチームだったけれど、グループリーグでは露呈しなかったディフェンス面の弱点がこの試合の最初の30分で露呈してしまったようにも思える。それまでの3戦では、圧倒的なボールポゼッションで勝ち抜いてきたにもかかわらず、この試合では、最初の20分で独逸に中盤を制圧され、おもったようなパス回しとデコが思うようにボールをもてない、ということもあって、これまでみられたような流れるようなパス回しのサッカーを最初の20分だせなかった。そして、自分たちのサッカーを封じられているうちに、先制点を許してしまうことに。
シュヴァインシュタイガーの先制点は、ポドルスキーが左サイドで抜け出してコンビネーションプレーもさることながら、ポルトガルディフェンダーの一瞬のマークミス(ほんの一秒あるかないかの差が勝負をわけたといってもいい)をついたうえで、マーカーを振り切ってあの早いパスをゴールに押し込んだシュヴァインシュタイガーのプレーは賞賛に値すると思う。そして、クローゼの二点目で、ポルトガルは、グループリーグでは露呈しなかったセットプレーに対する弱さを完全に露呈させてしまった。独逸は、前二試合にはなかった中盤での勤勉さを取り戻したことで、立ち上がり中盤の制圧に成功したこと、そして、得意のセットプレーでの強さと高さによって二点リードに持ち込んだ。独逸は自分たちのサッカーをすることによって、立ち上がりの30分間で2点リードに成功したのだといってもいい。この出足の早さはこのようなビッグトーナメントでは相手に心理的なプレッシャーを与えることができる。そして、ポルトガルは自分たちのサッカーができないうちに、弱点をつかれた。それが2点ビハインドの展開につながったのだろうと思う。とはいえ、前半終了間際にロナウドがドイツDFを自慢のドリブルで振り切って放ってレーマンにはじかれたシュートをヌーノ・ゴメシュが押し込んで一点返すことに成功する。段々とポルトガルが自分たちの色を取り戻そうとするところでハーフタイムへ。試合の行方はまだまだわからないことに。
そして後半。ポルトガルは開始当初は出足よく攻めることには成功する。一点を争う展開になるかとおもいきや、独逸は再びセットプレーからバラックが三点目をあげることに成功する。確かに、よくみると、ポルトガルスコラーリ監督が再三いっていたとおり、バラックパウロ・フェレイラをおしているけれど、セットプレーではこれぐらいのボディーコンタクトはさけられないもの。ファウルはファウルだけれど、これもサッカーのうちではある。まあ、審判に助けられたといってもいいようなシーンだったが、またしても独逸がセットプレーで一点を追加する展開で、ポルトガルはこれで完全に冷静さを失ってしまう。独逸はその後、引き気味になって、次々とディフェンスの選手を投入して、試合におちつかせつつふたをしようとする、一方で、ポルトガルは交代したナニを中心にミドルシュートで攻めるが、攻撃に正確さを欠いてしまう。終盤はポルトガルが一方的にせめて終了間際にポスティーガがヘディングで一点を返す。この失点は独逸にとっては集中力を欠いたあまりにもいただけないシーンだった。ポルトガルは残り数分で、三点目を狙いにいったけれど、時すでにおそし。それどころか、ロスタイム終了間際に、独逸はまえががりになったポルトガルの裏をついて、4点目の狙えるシーンを作り出すが、正確さをかいてゴールならず。これで試合はおしまい。

総じて、ポルトガルにとっては、ドイツに、グループリーグで出せた自分たちのよさを消された試合でもあった。ポルトガルは、グループリーグの試合をみた人ならわかると思うけれど、スピード感のある美しいパスサッカーを前面に出す。その特徴はもちろん攻撃にある。もちろん、なかなかその特徴をだせずに敗退してしまうことになるののが、ビッグトーナメントの宿命であるのだけれど、ポルトガルにとっては悔いの残る試合になったしまった。中盤の鍵であったモウティーニョが負傷交代する不運もあった上、攻撃陣が今日はほぼ沈黙してしまった。ロナウドは先制点に絡んだけれども、動きにとぼしく、試合から総じて見るべきところはなかったし、後半はほとんど「消えて」いた。その中でも、デコと右サイドバックボジングワは奮闘していたと思う。デコは中盤を縦横無尽にかけめぐって、今シーズン所属チームであるバルセロナでは不調におわったらしいけれど、まだまだ衰えをみせるどころかヨーロッパ最高峰のプレーヤーの一人であることを、彼は証明して見せたように思える。けれど、チーム全体では、独逸に完全に攻略されてしまったディフェンスを含めて、今日はいい試合をしたとはいいがたかった。デコ一人ではどうしようもなかったし、大会前からマスコミにちやほやされつづけたロナウドは本調子になく完全にそのチームとともに沈没してしまった。ビッグトーナメントではサッカーは一人でするものではない、今日はポルトガルはチームとして優れているとはもちろん思うけれど、この試合の90分の間に、トーナメントを戦うチームとしては優れていることを証明した独逸が勝ったのは必然だった。なによりも、今日は独逸のこれまでのサブ組みだった選手たちが出場して活躍したのだから。選手層の暑さということもこの試合はものをいった。
ドイツにとっては、時に一本調子になりがちではあるけれど、自分たちのサッカーをすることによって、終了間際の集中力の欠如による失点は予定通りというか、いつもどおりかもしれないけれど、そのことによって勝ち取った勝利だと思わなくもない。特に、ドイツのような闘志を前面に出すようなサッカーはトーナメントのような一発勝負の舞台では抜群の強さを示すことをわすれてはならない。それはそれでサッカーというスポーツの一面であるし、なによりも独逸サッカーの強さだろう。日本のマスコミが作り出した「ゲルマン魂」(独逸では一度もこの言葉はきいたことはない)という言葉に象徴されるような一面だ。そのような精神性はもちろんサッカーのような重スポーツでは大きな役割を果たすことには小生は異論はないし、自身サッカーをやっている経験からすれば、それがなければやっていけないスポーツであるというのは間違いないように思う。独逸にはそれができて、ポルトガルはできずに自分たちのサッカーをだせずに不完全燃焼で大会をあとにする。ポルトガルのサッカーにドイツのような、そして、今大会ならば、トルコのような終了間際に3点差をひっくり返すようなサッカーを期待しても、なにかが違うと小生はおもわなくもない。そうする状況に追い込まれたポルトガルが負けたのは、試合の流れからすれば必然だったともいえるだろう。特に、一発勝負のビックトーナメントではそんなものだ。
ただその点が、なによりも、小生が独逸代表のサッカーが嫌いな理由のひとつなのだ。グループリーグでの独逸のだらしない節操のないつまらない試合を見たあとで、昨日のような試合を見るのはスリルがあるかもしれないけれど、応援するには心臓に悪いし、小生はそういう節操のないサッカーをみるのは好きではないのだ。もちろん、昨日の結果からして、独逸がグループリーグでは最小限のサッカーをして勝ち抜くサッカーを目指したのだとすれば、作戦としては間違いのないことだ。仮にそれができたとしても、それはなによりも独逸のグループがそれができる対戦相手ばかりだったということだ。そう、くじ運も実力のうちだということ。ただ、独逸代表はそんなイタリア人のように器用なサッカーができるチームでは断じてない。クロアチア戦は初戦がうそのようなさえないサッカーをして敗北、オーストリア戦などは、対戦相手をはなからなめて、相手の決定力のなさにも助けられて、辛勝というようなサッカーは、結果だけみたら綱渡りでスリリングだけれど、見世物として面白みがないし、サッカーをやっている身としては、反面教材にはなる以外に学ぶべきところはない。それが独逸代表、実にいつもどおりと思いながら、グループリーグの三試合を見たし、と同時に、ポルトガル戦は、これまでの2試合とは違う試合になるだろうとはおもっていたが、結果と内容もみても、スコア以上に今日は独逸がいい試合をしたともいえるだろう。仮に今日のような試合をあと二戦独逸代表が続けるなら残りの大会を盛り上げてくれることは間違いないことだけは認めざるをえない。
それでも、小生は、自分たちの追求するサッカーの美しさのために死ぬる、というような美学に貫き通されたオランダサッカーのほうがやっぱり大好きである。現にグループリーグでもまったく手を抜かずにグループリーグの試合を全勝して合計9つも相手側ゴールに叩き込んでしまうオラニエOranjeはやはり最高だ。この後先考えない攻撃サッカーと、自分がサッカーをするのに参考材料にするには次元が違うけれど、強さは本当に気持ちがいい。サッカー観戦というエンターテイメントとしても最高だ。オランダは決勝トーナメントのことを考えていたらルーマニアに試合をプレゼントしてもよかったというのに。そうすれば、準決勝で再び合間見えることになるかもしれないフランスのみならずイタリアをそれぞれ家路につかすことだってできたのだから(仮にルーマニアが勝ち進んだとして、スペインと対戦することになったとしても、勝ち抜くことになるのはもちろんスペインだとはおもうけれど)。そうすることによって、宿敵ドイツからも喝采を受ける機会もあったはずなのに。ところで、W杯での準決勝敗退の遺恨からか、とにかく独逸人は二年前のW杯以降ものすごいアンチ・イタリアだ。オランダがイタリアを3−0でボコボコにした試合でも、オランダが得点するたびに大喜びしていたほどである。それをぬきにしても、小生はイタリアサッカーは選手の質はともかくとして、サッカー文化は独逸サッカーよりも大嫌いである。それでまあ、それを、馬鹿正直に、打算抜きに、勝ち抜きの機会があったルーマニアを失望の淵に突き落としてしまうとは、なんというサッカー馬鹿なのだと思う。しかし、このサッカーだけに集中する、しっかりと試合をする、自分たちのサッカー美学を追及して勝利へまい進する、この点でオラニエはやはりフェアなチームだ。結果として、ルーマニア戦で命拾いしたイタリアを救うことにもなった。そして、ルーマニアはイタリアにとどめをささなかったために、グループリーグ突破の千載一遇のチャンスを逃してしまった。これは、フランス戦はともかくとして、イタリア戦のサッカーの内容からしルーマニアにとっては残念なことだったとは思うが・・・。

大騒ぎする独逸サポータたちをみつめる人たち - Frankfurter Tor, Berlin-Friedrichshain 19.6.2008


小生は独逸代表が決勝戦でオラニエと対戦してコテンパにやられるのをのぞんでいるから、そして、独逸が敗退してしまって、ベルリンでこのユーロのお祭り騒ぎが終わってしまっては日常生活がつまらなくなってしまうと思っているので、独逸がまだトーナメントに残ることは素直に歓迎したいのだけれど、昨日独逸代表が勝って試合がおわったあとのベルリン市内の騒ぎようを見ながらムラムラと独逸代表に対する不快感と昨日のお祭り騒ぎの独逸人たちに対する嫉妬心とが沸いてくるのを感じてしまった。不快感はともかくとして、この嫉妬心はなんなのだろうかと思ったのだけれど、やはり、これはオラニエに決勝までいってもらわないことにはどうしようもないというか、我が日本代表もとい日本サッカーの発展以外には結局のところしょうがないのかなとも思ったりもする。それはともかくとして、明日のロシア戦は我等が宿敵フース・ヒディンク率いるロシアを我がオラニエが一蹴することを切に願います。ロシアもいいチームだと思うけれど、今のオラニエの敵ではないということを証明してほしいと思いますわ。

ていうか、今日はトルコ対クロアチア。クロイツベルクで観戦予定。トルコが勝てば、準決勝ではなんと独逸と対戦。そんなことにもなれば、ベルリンは戦場になるかもしれない。ベルリンという街の「日常」をつきやぶる何かが見たいと願うのは小生だけでしょうかね。というわけで今日はおしまい。また自戒じゃ。